観光地や神社、公園などを訪れた際、「協力金をお願いします」と書かれた看板や募金箱を目にしたことがある方も多いでしょう。
入場料と比べると支払うべきか、何に対して払うのかが曖昧で、もやもやした経験があるのは私だけではないはず。そんな”協力金”、入場料と何が違うのか調べてみました。
(本記事の内容は私見が含まれます。法律や税金について具体的な判断をする場合は各専門家に相談してください。)
1. 協力金の支払いは任意
1-1 支払いはあくまで「任意」です
“協力金” 、一見すると“払わなければいけない料金”のようにも見えますが、実際のところ、支払う義務はありません。
法的な観点から見ると、協力金は「寄付金」の一種であり、強制力のある支払い義務は課されていません。
つまり、支払わなかったからといって法律に反することもなく、施設の利用自体を断られることも基本的にはありません。
実際、多くの観光施設では「任意です」「お気持ちで結構です」といった表現が使われており、訪問者に判断を委ねる形をとっています。
1-2 入場料でなく「協力金」にするのは対象が公共物だから
協力金と入場料の使い分けには、施設の性質や運営主体の事情が関係しています。たとえば公園、展望台などは、多くの場合 “自治体” が管理する空間です。
こうした場所では、法的に「入場料」や「利用料」を設けるためには条例で具体的な金額まで定める必要があります(後述)。
たとえば自治体が管理するモノ・場所を、自治体が条例という正規の手続きを踏まない(つまり一部の勝手な思いで入場料を徴収する)としたらどうでしょう。あなたも近くの公園を占拠して入場料を徴収することができてしまいます。
1-3 支払うときは理念や意義を確認し「応援」のつもりで
支払う・支払わないはあくまで自由ですが、もし協力金を出すことを検討するなら、その施設や団体が掲げている理念や使途を一度確認してみましょう。
環境保全、文化財の維持、バリアフリー対応など、共感できる目的に対しての“応援”であれば、きっと納得して気持ちよく支払えると思います。
中には、協力金の活用内容を丁寧に説明していたり、定期的に報告していたりする施設もあり、「この場所を守る力になれた」と実感できるような取り組みも増えています。
2. 入場料と協力金の違いとは
2-1 支払わない場合の利用制限
“入場料” とは、一般的に「特定のサービスや施設を利用するための対価」として定義されています。たとえば美術館、動物園、テーマパークなどでは、入場料を支払わなければ施設の中には入れません。
これは契約上も明確で、入場料=施設提供者との間で成立するサービス契約と見ることができます。入場する前に代金を支払う必要があり、入場料を払わない場合は入場を断られる正当な理由になります。
これに対し “協力金” はあくまで寄付であるため支払わなかったとしても入場できるかどうかとは関係ありません。協力金を支払わなくても入場を断られることはありません。
2-2 法的上の違い
一般企業や個人が自身の所有するモノ・場所に対して利用料や入場料を設定することは基本的に制限はありません。
協力金扱いとすると確実に回収できないなどのデメリットがあるため、特別な事情がない限り採用されません。
対して自治体が “協力金” を設定するのは何故でしょうか。自治体が利用料や入場料を設定するためには以下の地方自治法に則り条例を設定しなければなりません。
条例の設定には一定の時間と手続き上のハードルがあるため、自治体は早期に導入するため協力金という形式をとるメリットがあります。
(本記事の内容は私見が含まれます。法律や税金について具体的な判断をする場合は各専門家に相談してください。)
(使用料)
第225条 普通地方公共団体は、第238条の4第7項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用につき使用料を徴収することができる。
地方自治法|条文|法令リード
(分担金等に関する規制及び罰則)
第228条 分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。この場合において、手数料について全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務(以下本項において「標準事務」という。)について手数料を徴収する場合においては、当該標準事務に係る事務のうち政令で定めるものにつき、政令で定める金額の手数料を徴収することを標準として条例を定めなければならない。
2 分担金、使用料、加入金及び手数料の徴収に関しては、次項に定めるものを除くほか、条例で5万円以下の過料を科する規定を設けることができる。
3 詐欺その他不正の行為により、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収を免れた者については、条例でその徴収を免れた金額の五倍に相当する金額(当該五倍に相当する金額が5万円を超えないときは、5万円とする。)以下の過料を科する規定を設けることができる。
地方自治法|条文|法令リード
2-3 税制上の違い
税務上でも、両者の扱いは大きく異なります。
- 入場料:対価性があり、収益として扱われ、消費税の課税対象となります。
- 協力金:明確な任意性がある場合、寄付金として扱われ、非課税になることもあります。
ただし、ここで注意が必要なのは、「協力金」と書かれていても、実態が“入場料”と変わらない場合(払わないと入れない、返金されない等)は、税務上「収益」と判断される可能性があるということです。
実際に起きた自治体の税金トラブル
ちなみに公共法人の場合、法人税がかからないという話もありますが非常に複雑なので具体的な判断には専門家のアドバイスが必須です。
(本記事の内容は私見が含まれます。法律や税金について具体的な判断をする場合は各専門家に相談してください。)
第二章 納税義務者
法人税法 | e-Gov 法令検索
第四条 内国法人は、この法律により、法人税を納める義務がある。ただし、公益法人等又は人格のない社団等については、収益事業を行う場合、法人課税信託の引受けを行う場合、第八十二条第四号(定義)に規定する特定多国籍企業グループ等に属する場合又は第八十四条第一項(退職年金等積立金の額の計算)に規定する退職年金業務等を行う場合に限る。
2 公共法人は、前項の規定にかかわらず、法人税を納める義務がない。
3 外国法人は、第百三十八条第一項(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得を有するとき(人格のない社団等にあつては、当該国内源泉所得で収益事業から生ずるものを有するときに限る。)、法人課税信託の引受けを行うとき又は第百四十五条の三(外国法人に係る退職年金等積立金の額の計算)に規定する退職年金業務等を行うときは、この法律により、法人税を納める義務がある。
4 個人は、法人課税信託の引受けを行うときは、この法律により、法人税を納める義務がある。
3. なぜあえて「協力金」とするのか?
3-1 利用者のハードルを下げる
“無料” や “協力金” という表現は、訪れる側の心理的ハードルを下げる効果があります。
たとえば、「大人500円」と明示された入場料が設定されていれば、家族連れや通りがかりの観光客が入場をためらうこともあるでしょう。
特に、滞在時間が短くなる可能性のある屋外公園や展望台では、金額が“義務”とされることで来訪者数が減少するリスクもあります。
一方、「お気持ちでの協力をお願いします」というスタンスは、利用者に選択の余地を残しながら、施設への理解と支援を求める柔らかいアプローチです。
これにより、「入ってみようかな」と思える心理的なハードルが下がる可能性があります。
3-2 “善意”や“地域貢献意識”を刺激しやすい
協力金方式には、「払いたくなる理由」を自ら見出してもらう力があります。
たとえば場所により、自然保護活動や文化財の維持、トイレやベンチの整備、バリアフリー対応など、具体的な取り組みが掲示されていますね。
多くの来訪者は「この場所に貢献したい」という共感や連帯感を持つようになります。
支払いの動機が義務ではなく“共感”や“応援”であることが、持続的な関係性づくりに寄与するのです。
3-3 法的制限や社会的配慮と折り合いをつけるための工夫
2章で書いたとおり “入場料”,”協力金” には条例や税制に関わるメリット・デメリットがあります。
これらのバランスを鑑みた実務上の視点で選ばれることが多いでしょう。
また公共のモノ、場所を使ってお金儲けのイメージが付きまとう”入場料”という制度を使いづらい場合に”協力金”を使うメリットもあります。
4. 「実質義務」なのか?支払いをめぐるリアル
4-1 「任意です」と言われつつ断りづらい空気がある
協力金の表示には「お気持ちで」「ご自由に」などの文言が添えられていることが多いです。
ただ実際には入口付近に設置された募金箱や職員の目の前での案内など、「払わなければいけないのかな…」と思わせるシーンがあります。
特に混雑時や団体客の前では、払わない選択をした自分が周囲から浮いて居心地が悪くなりそうですよね。
これは運営側が意図的に圧力をかけているというよりも、日本的な“空気を読む”文化による同調性の影響かもしれません。
4-2 無言の圧力や周囲の目による“心理的な義務化”
人目がある場面では「協力金=社会的マナー」のように感じられ、結果的に「義務ではないが断れない」という空気が生まれます。
また、支払わなかった際にお礼がない、入口で職員と目が合うなどの“無言の圧”も影響します。こうした演出は制度として明確なルールではないものの、実質的に支払いを誘導する仕組みになっている場合もあります。
4-3 支払い率を高める仕掛け(感謝掲示/記名式芳名帳/QRコード決済)
支払いを任意にしている以上、収入の安定性をどう確保するかは運営者にとって大きな課題です。以下のような「払いたくなる仕掛け」を工夫しています。
- 用途を示す掲示:これまで行った整備・これからの改善(お金の用途)を掲示
- 感謝を示す掲示板:協力に感謝するメッセージをあらかじめ掲示
- 記名式芳名帳:支払った人がメッセージを書けるノートを設置
- QRコード決済:キャッシュレスで負担感を軽減
- オリジナル返礼品:協力者にポストカードや缶バッジなどを配布
こうした施策は「義務」とまではいかずとも、支払った側に特別感と満足感を与えるインセンティブとなり、支払い率を高めるのに役立っています。
4-4 運営と利用者のコミュニケーションが鍵
協力金にもやもやした義務感があると感じるかどうかは、運営者の説明や訪問者の姿勢によって大きく変わります。
たとえば、協力金の具体的な使途が明確で、「この絶景を維持するために必要です」といったメッセージが丁寧に掲示されていれば、訪問者も納得して自主的に支払いやすくなりますよね。
逆に、説明が不十分だったり無言で集金箱を差し出された場合、「結局これは入場料なのでは?」と不信感につながりやすくなります。
訪問者側も目の前の環境がタダでできているわけではないと、誰かの支援で成り立っているという視点で利用したいですね。
5. 協力金制度のメリットと課題
5-1 協力金制度のメリット
柔軟な運用が可能 協力金は任意の寄付であるため、条例制定などの煩雑な手続きを経ずに導入でき、自治体や施設側にとって導入のハードルが低い。
地域とのつながりを強化 支払う側が「応援」の気持ちで協力することで、地域や施設との心理的な距離が縮まり、持続的な支援につながりやすい。
5-2 協力金制度の課題
収益の不安定さ 任意であるがゆえに、収入が予測しづらく、施設運営の安定性に欠ける可能性がある。
“実質的な義務化”の懸念 表向きは任意でも、現場の雰囲気や掲示の仕方によっては「払わないと気まずい」と感じさせてしまうことがあり、心理的圧力が問題視されることも。
制度の透明性と信頼性の確保 使途が不明確だったり、報告が不十分だったりすると、利用者の信頼を損ね、支払い意欲が低下するリスクがある。
特に利用料・入場料の場合はそこで得る体験の対価としてお金を払うのに対して、協力金は未来に対して投資する建前なのでより丁寧な説明が必要だと思っています。
6. 現場で起きたトラブルや活用の参考事例
6-1 静岡県河津町:協力金が“脱税扱い”に
河津桜が有名な静岡県河津町。
河津桜まつり実行委員会は入場者からの協力金を求めていた他、駐車場の料金やテナントの出店料を協力金という形にし、この収益に対する税金を納めてきませんでした。
しかし後になって課税対象ということが判明し追納することになっています。地域おこしの一環として事業性の意識が低いことが脱税につながってしまうこともあります。
静岡県河津町内で開かれる「河津桜まつり」の実行委員会が駐車場料金などまつりの収入に対する消費税を長年納めていなかった問題で、実行委は20日、未納分は概算で400万~500万円にのぼると公表した。
(中略)未納分の税目は消費税だけでなく、法人税、県事業税、特別法人事業税、県民税、町民税で、まつりが1991年に始まってから一度も支払っていなかったという。
(中略)町によると、2019~23年で駐車場料金や露店の出店料、企業協賛金で約1億5586万円の収入があった。そのほとんどが仮設トイレの設置や交通整理、ごみの処理などに充てられている。長年赤字が続いてきたが、町の補助金などによりようやく黒字になったという。
そのため、実行委は「公益的な運営で収益目的ではないため、消費税の課税対象にはならない」と解釈して納税を怠っていたという。
河津桜まつりの消費税未納で町長ら謝罪、約500万円納付へ 静岡 [静岡県]:朝日新聞
(以下略)
6-2 富士山:協力金→入山料へ移行
世界文化遺産の富士山はかつては自由に登れていましたが、登山者のマナーや混雑が問題となっていました。今では入山料を設定することで環境改善に役立っています。
富士山は世界遺産に登録されましたが、その後観光客の増加とともにゴミの問題が発生。清掃をはじめとする保全のために一人1000円の”富士山保全協力金”が2013年から導入されました。
それでも任意の支払いに応じない人が多いこと、さらなる観光客の増加、弾丸登山など無謀な入山対策として今では一人4000円の入山料を支払いと予約が必要となっています。
合わせてゲートで入山者数・時間帯を制限することで混雑やトラブルの低減に役立っています。
このように適切に料金を設定し、観光地を管理することでオーバーツーリズム対策になります。
富士登山オフィシャルサイト
↑見やすいホームページが作れるのは管理者にとっても利用者にとってもうれしいですよね。
6-3 SMART AQUARiUM SHIZUOKA:入場料は後払いで金額自由
協力金ではありませんが、金額に対する一つの例として静岡市松坂屋にある”SMART AQUARiUM SHIZUOKA”を紹介します。
ここは平日限定で入館料を利用者が決められます。説明を受けたうえで入場し、帰る際に自分の言い値で料金を支払います。
休日料金は決められていたり、支払額に応じて記念品がもらえたりと「このくらいだよね」みたいな金額は確かにありますが面白い取り組みですよね。
実際に利用して感じた価値に応じた金額を払ってもらう方法です。
7. 訪問者としてどう向き合えばいい?
7-1 支払うかどうかの判断ポイント
協力金というあいまいな提示の仕方は支払うべきか迷いますよね。そんな時に参考にしたいポイントは以下の3つです。
- 維持管理にお金がかかっているか
- 柵やベンチ・トイレなど新しく設備を設置する必要があるか
- 協力金の用途が明確かどうか
7-2 払わない=悪ではないが、支援の形として受け止める選択もあり
任意とはいえ、払わないとうしろめたさを感じますよね。ただし、それはあくまで「社会的空気」の問題であり、制度上の義務ではありません。
誠実に考えた末の「今回は払わない」という選択も、訪問者として尊重されるべき判断です。
一方で「もっとこの景色を見たい」「子どもにも残したい」と思えたなら、その気持ちを“支援”として形にする——それが協力金のあるべき使われ方かもしれませんね。
7-3 感謝が伝わる運営や、透明な報告が“払いたくなる環境”をつくる
私が実際に「払ってよかった」と感じるときは、次のような工夫があったときです。
- 支払い用途が具体的に掲示されている(例:○○の修繕に使用中)
- 「ありがとう」のメッセージが目に入る
- 協力金によってできた成果が、写真や実物として見える
つまり、“使い道が見えること”と“感謝されること”が、訪問者の心理的な納得感と支援意欲を引き出してくれるのだと思います。
運営者と訪問者の相互理解が深まることが、最終的には制度の信頼性にもつながるのでしょうね。
8. まとめ|あなたは次、どう行動しますか?
8-1 協力金は地域や施設の未来を支える力に
協力金は、料金でも罰金でもありません。環境を守ろうとする人たちの思いに、そっと手を添える“共感のかたち”です。
運営者が当たり前のように協力金を集めたり、訪問者が安さこそ正義と考えたりすれば共感は生れません。
わたしたち訪問者がその仕組みを理解し、自分の意思で支援を選べるからこそ、本当の意味で持続可能な仕組みになっていきます。
8-2 支払いの「強制」ではなく「参加型の応援」としての捉え方
「仕方なく払う」ではなく、「考えて払った」「払わなかったが、意味を知れた」。
そんな一人ひとりの選択が、施設側にも訪問者にも、より対等な関係を育みます。協力金を「制度」ではなく「対話」の入り口として受け止めてみてはいかがでしょうか。
8-3 みなさんは”協力金”を支払いますか
私は協力金を求められた場合、職員の言い値で払っていましたが “入場料と明記しないのに実質的に強制徴収しているのが不誠実に感じる” シーンは多くありました。
この記事を書くにあたり色々調べてみると法律的な縛りなど、自治体にも事情もあるんだな理解が深まりました。
これからは盲目的に支払って終わりではなく、そのお金が何に役立っていくのか考えながら利用させてもらうことにします。
つたない文章を最後まで読んでいただいてありがとうございます。
読者の方の疑問が少しでも解決できればうれしい限りです。